宇宙へは過酷な環境です。強力な放射線、重力がなく真空、そして極端な温度の変化など宇宙は人間にとっては危険な空間です。そのため宇宙飛行士は特殊な装備である「宇宙服」を身に着けます。
宇宙服は、単なる衣服ではなく、科学と技術の粋が結集した驚異的な存在で作業や探査を可能にするための必須アイテムです。
今回はそんな世界中で開発された歴代宇宙服のデザインや機能について紹介します。NASAをはじめとする各国の宇宙機関や民間企業が取り組む宇宙服の開発競争は、まさに現代の科学技術の最前線です。その進化は目覚ましく、我々がかつて想像もしなかったような革新的な特徴を持つ宇宙服が登場しています。
さあ、宇宙服の世界へと足を踏み入れ、未来の宇宙探索に役立つ最新の技術とデザインに驚嘆しましょう。
宇宙服のファッションショー
宇宙服と一言に言っても、そのデザインや機能は国や時代、任務によって大きく異なります。一見、白一色の単調な服装に見えるかもしれませんが、その実、各国の文化や技術水準、目指す目標や対象とする宇宙環境などによって、それぞれの宇宙服は独特の特性を持ち、その形状や色合い、素材に至るまで微妙に異なるのです。
2023年現在、宇宙服は3カ国でしか作られていません。意外にその数は意外と少なく、現状ではアメリカ、ロシア(旧ソビエト連邦)、そして中国の3カ国だけです。しかし現在では、新たに民間企業による宇宙旅行が始まる中で、SpaceXが自社開発の宇宙服を公開するなど、新たな動きも見られます。
【アメリカ】
アメリカの宇宙服開発はNASAを中心に行われています。その歴史は1960年代までさかのぼり、月面着陸を果たしたアポロ計画では特別に設計された宇宙服が使われました。
その後もスペースシャトル計画や国際宇宙ステーション(ISS)での活動に対応するために、宇宙服のデザインは進化を続けてきました。
・Mercury suit マーキュリー宇宙服
【使用時期】1961年〜1963年
【ミッション】マーキュリー 計画MR-3〜MA-9
【説明】BFグッドリッチ社とアメリカ海軍によって戦闘機用の耐圧服として作られたものです。アメリカ初の有人宇宙飛行計画であるプロジェクト・マーキュリーのために改良され使用された宇宙服です。
真空の宇宙で減圧された場合に保護のための服でスマートで宇宙人のような見た目が印象的です。
宇宙飛行士たちはスーツに対して温度管理が不十分で、与圧されたスーツ内では頭を回すことができないということが不満だったそうです。重量は約10kgで比較的軽量な宇宙服です。
・Gemini G4C(G3C) suit ジェミニ宇宙服
【使用時期】1965年〜1966年
【ミッション】ジェミニ計画4-6、8-12
【説明】デイビットクラークカンパニーによる開発製造でジェミニ計画で7号以外全てで使用された宇宙服です。G3CとG4Cがありますがほぼ同様のものです。
1965年エド・ホワイトがアメリカ初の船外活動をおこなったスーツです。マーキュリー宇宙服で使用されていた布製のジョイントの代わりに、ジェミニ宇宙服には圧力袋とリンクネット拘束層の組み合わせがあり、加圧されたときにスーツ全体が柔軟になりました。
またオプションでELSSという船外生命維持システムとESPという船外支援パッケージがあり緊急時に1時間の生命維持が可能でした。またこの宇宙服をベースにさまざまな進化や派生が生まれており汎用性の高さを示しています。非常にベーシックな見た目でありながら比較的スタイリッシュな見た目でオシャレです。
・Apollo Block II/Skylab A7L EVA and Moon suit アポロ11号宇宙服
【使用時期】1968年〜1971年
【ミッション】アポロ計画7-14
【説明】アポロ計画やスカイラブ計画で使用された宇宙服です。名称は船外機動装置(EMU)と呼ばれ、何重にも重ね着されておりまさに小さな宇宙船状態です。
有名な初の月面着陸アポロ11号の際に使用されていたことから通称アポロ11号宇宙服と呼ばれています。この宇宙服は摩耗から保護し熱太陽放射や宇宙服に穴を開ける微小隕石から保護しました。有名なニール・アームストロングは「丈夫で信頼性が高く、抱きしめたくなるほど」と表現しており未知の月探査という過酷な環境で評価されました。
とても月に行った服ということで、とても有名で「宇宙服=ゴツく重装備」というスタンダードな印象を生み出した伝説的な服、ホワイトカラーの中にメタリックな赤と青のバルブが美しく、まさに『これこそ宇宙服』を体現しています。
・Advance Crew Escape System Pressure Suit(ACES) アドバンストクルーエスケープスーツ
【使用時期】1994年〜2011年
【ミッション】スペースシャトルディスカバリー計画64〜135
【説明】その見た目から通称『パンプキンスーツ』と呼ばれています。スペースシャトルでよく使用された宇宙服です。ACESスーツは、緊急脱出時に特化しています。
宇宙船からの脱出時に高速で離脱する必要があるため、脱出用のパラシュートや降下装置がバックパックに組み込まれています。これにより、宇宙飛行士は緊急時に安全な降下を行うことができます。ACESスーツのヘルメットには、液晶ディスプレイが組み込まれています。
これにより、宇宙飛行士は重要な情報や生命維持システムの状態をリアルタイムで確認することができます。この機能は、緊急脱出時や宇宙遊泳時に情報を素早く把握するために重要です。多くの日本人も着用しています。近年では最もベーシックな宇宙服のデザインではないでしょうか。
【ロシア・ソビエト】
ロシア(旧ソビエト連邦)は、宇宙開発のパイオニアとして早くから宇宙服の開発に取り組んできました。
世界初の有人飛行のガガーリンや1965年のアレクセイ・レオーノフによる世界初の宇宙遊泳は、宇宙服の開発競争を一気に加速させました。その後もソユーズ宇宙船やISSでの使用を見越した宇宙服のデザインと機能は、絶えず進化を続けています。
・SK-1宇宙服(Скафандр Космический)
【使用時期】1961年〜1963年
【ミッション】ボストーク計画1-6
【説明】世界初有人飛行「地球は青かった」の発言で有名なユーリイ・アレクセーエヴィチ・ガガーリンのために作られた宇宙服で、1961年4月12日ガガーリンはボストーク3KA-2で世界初の有人宇宙飛行に成功しました。
服の重量は20kgもありガガーリンは108分間の飛行の後、無傷で帰還した。この時、エンジニアも無重力で人間がどうなるかわかっていなかったようです。見た目の簡易性から何かの映画の衣装のようです宇宙に
・ベールクト宇宙服 (Скафандр Беркут)
【使用時期】1965年3月18日
【ミッション】ボスホート計画2
【説明】世界初の宇宙遊泳に使用された宇宙服、前述のSK-1宇宙服の改良形です。世界初の宇宙遊泳者アレクセイ・レオーノフが宇宙遊泳を行った際、気圧が上がり服全体が膨張し、手を握ることもできなかったそう。
服の重量は20kgあり表面からは想像できないほど中に科学が詰まっている。世界初の宇宙遊泳は5mの命綱をつけ約20分間行われました。問題が起こっても宇宙飛行士は落ち着いて命懸けで判断し行動しているのです。
こうした緊張感のストーリーは宇宙の過酷さをリアルに感じることができます。
・ソコル宇宙服
【使用時期】1973年〜現在
【ミッション】ボストーク計画ソユーズ計画
【説明】NPPズヴェズダにより製造されている宇宙服。1971年ソユーズ11号で窒息事故が起こってしまい与圧宇宙服の開発が再度行われ生まれた新しい宇宙服がソコル宇宙服です。
また日本人もこの宇宙服を着用しており、それもなんと民間でかつ日本人初の宇宙飛行士でした。オーダーメイド製で日本人がこの宇宙服を作ったときに次のような発言をしています。「ソコル宇宙服はソユーズ宇宙船のシートに座るために作られた服で、歩くためのものではない。シートの型をとるときは、小さなバスタブのような容器に入り、石膏をドボドボと流し入れた」とあります。
日本人初の宇宙飛行士の宇宙服は現在TBSが所有しています。また、有名な宇宙飛行士の野口聡一氏やZOZOの前澤もオーダーメイドのソコル宇宙服を作成しています。
埼玉県加須市にある加須未来館に本物のロシア製ソコル-宇宙服が展示されているそうなのでぜひ見てほしい。
青のラインやポイントが非常に美しく、機能性にあふれた素晴らしいデザインだ。
【中国】
中国は、2003年の初の有人宇宙飛行以降、宇宙服の開発に力を入れてきました。中国独自のシェンジョウ宇宙船の設計に合わせ、ソビエトのデザインをベースにしながらも中国独自の特性と要求を満たすように改良されています。
最近では、自国開発の宇宙ステーション「天宮」への有人ミッションに向けて、さらなる改良が行われています。中国では宇宙服のことは「太空衣」「航天服」と呼ばれています。
・飛天宇宙服
【使用時期】2008年〜現在
【ミッション】神船計画5-13
【説明】重量は120kgで製造費は約5億円です。中国が初めての有人宇宙飛行を達成した「神舟5号」ミッションで使用され。このミッションでは宇宙飛行士の楊利偉が飛天を着用し、中国として初めて宇宙を訪れました。
また、中国が初めて宇宙遊泳を実施した「神舟7号」ミッションでも飛天は使用され、宇宙飛行士の翟志剛が宇宙遊泳を行いました。
中国ということもあってか白と青のイメージの強かった宇宙服とはまた違い白に赤というコンセプトに合った良い配色で作られている。
未来の宇宙服トレンド
・硬式宇宙服AX-5
【説明】
硬式宇宙服 AX-5 はアメリカのNASAが開発した試作品で、実際のミッションには使用されていません。宇宙での作業に必要な柔軟性と保護機能を両立するために開発されました。
AX-5の開発は1980年代に行われました。当時のNASAはシャトルミッションに伴い、より高度な船外活動(EVA)が求められており、それに対応するためにはより優れた宇宙服が必要とされていました。
その答えとしてAX-5が開発されました。AX-5は全身を覆う硬質の外殻を持ち、宇宙での微小隕石の衝突などから身体を保護する能力がありました。また、その硬質の外殻は身体の動きを妨げず、様々な作業を可能にする設計となっていました。
その高度な設計にもかかわらず、実際のミッションでの使用はされませんでした。その理由は複数ありますが、主には開発コストと重量、そして当時のシャトルの打ち上げ能力が限られていたためとされています。
AX-5宇宙服は具体的なミッションでの使用予定が公表されていません。AX-5は1980年代に開発された試作品であり、その設計は現代の宇宙服の開発に影響を与えましたが、本体そのものが直接使用されることはありませんでした。
マシュマロみたいな見た目でなんだかベイマックスを彷彿とさせるキュートなデザインです。不思議な魅力があります。
・次世代型宇宙服AxEMU
【使用時期】2020年代後半予定〜
【ミッション】アルテミス計画
【説明】まずはインパクト抜群の黒い配色が気になるでしょう。が、しかしこれはお披露目イベント用で、安全性かつ涼しさを保てるように白一色になる可能性が高そうです。
この宇宙服は長年使用されてきた従来の宇宙服から進化し有人月面探査計画アルテミス計画で使用される予定で開発が進められている最新鋭のう宇宙服です。
・xEVAS
【説明】xEVAスーツ(Exploration Extravehicular Activity Suit)は、NASAが開発中の次世代の宇宙服です。このスーツは、NASAのアルテミス計画で宇宙飛行士が月面で活動するために特別に設計されています。
宇宙服は宇宙飛行士を過酷な宇宙環境から保護し、必要な生命維持システムを提供しています。
xEVAスーツの主な特徴の一つはそのモジュラリティです。これは、特定のミッション要件に合わせて宇宙服を調整・カスタマイズすることができるという意味です。
さらに、xEVAスーツはアストロノートの安全とパフォーマンスを最大化するために、最新の生命維持システムや通信システム、防護技術を備えています。胸から頭まで繋がっており特殊な構造のように感じます。
おまけ
SpaceX宇宙服
【ミッション】SpaceX
【説明】めちゃくちゃかっこいい一体型のスマートなこれまでにない新しい印象の宇宙服です。SpaceXとは(Space Exploration Technologies Corp.)は、2002年にビジョニャリーであり起業家であるイーロン・マスクによって設立されたアメリカの民間宇宙航空会社です。
スペースXの目標は、宇宙旅行を一般の人々が利用可能なものにし、人類を多惑星種族にすることです。
上記の野口氏の解説で、とてもわかりやすく解説してくれているのでぜひ見てください。
宇宙服“20の最強機能”
宇宙にはさまざまな危険があります。真空状態や熱や宇宙の塵など、宇宙のどのような作業現場でも無限の宇宙空間を守る最強の衣服、もはや小型宇宙船なのです。
船外活動ユニット(EMU)の構造には次のような機能があります。
①TVカメラ:宇宙飛行士の活動をリアルタイムで地上の制御センターに送信します。これにより、彼らの動きや行動を観察し、指導や援助を提供できます。
②ライト:宇宙飛行士が宇宙空間で作業を行う際に必要な照明を提供します。宇宙空間は非常に暗いため、特に船外活動(EVA)中にはこの照明が重要になります。
③無線機:地上の制御センターや他の宇宙飛行士との通信を可能にします。命令や助言を受け取ったり、現状を報告したりするために必要です。
④アンテナ:無線通信を行うために必要です。地上との連絡は、宇宙飛行士の安全を保つ上で非常に重要です。
⑤マフラー:宇宙服の温度調整を助けるために存在します。宇宙空間は極端な温度差が存在するため、マフラーによる調整が必要です。
⑥ファン:宇宙服内の空気の循環を促進します。これにより、飛行士の呼吸に必要な酸素が均等に供給されます。
⑦水タンク:飲料水の供給だけでなく、宇宙服の冷却にも使用されます。水は体温を制御する上で効果的です。
⑧生命維持装置:宇宙飛行士の生命を維持するための重要なシステムです。酸素供給、二酸化炭素の除去、冷却などの機能を含みます。
⑨汚染物質除去カートリッジ:宇宙服内の空気から有害な物質を除去します。これにより、宇宙飛行士は安全に呼吸できます。
⑩サブリメータ:宇宙服の冷却システムの一部です。熱を吸収して宇宙に放出し、宇宙飛行士の体温を適切に保ちます。
⑪主酸素タンク:呼吸に必要な酸素を供給します。宇宙空間では自然界から酸素を得ることができないため、このタンクが必要です。
⑫二次酸素タンク:主酸素タンクの補助として機能します。何らかの理由で主酸素タンクが使用不能になった場合、生命を維持するためのバックアップとして機能します。
⑬酸素レギュレータ:供給される酸素の流量を制御します。これにより、宇宙飛行士は常に適切な量の酸素を呼吸できます。
⑭バッテリー:宇宙服の電源を提供します。ライト、無線機、ファンなど、電気を必要とする部分を動作させるために必要です。
⑮温度調整バルブ:宇宙飛行士が体温を調整するために使用します。宇宙の環境は極端な寒暖差があるため、体温を適切に保つための調整が必要です。
⑯冷却下着:宇宙飛行士の体温を下げる役割を果たします。この下着は水を通すチューブで作られており、体から発生する熱を吸収して宇宙に放出します。
⑰通信用ヘッドセット:地上の管制センターや他の宇宙飛行士との通信を可能にします。このヘッドセットは、ヘルメットの内部に取り付けられています。
⑱有人飛行ユニットマウント:有人操縦飛行装置(MMU)を取り付けるための接続部位です。MMUは、宇宙飛行士が宇宙船から独立して移動できるようにする装置です。
⑲警告警報コンピュータ:宇宙飛行士に宇宙服の状態や生命維持システムの動作状況を通知します。異常が発生した場合には、警告信号を発し、早急な対処を促します。
⑳オムツ:長時間の船外活動の間にも適切な衛生状態を保つために使用されます。公式には「Maximum Absorbency Garment (MAG)」と呼ばれ、液体を吸収する能力があります。
以上が、宇宙服の各パーツが持つ役割と、それぞれがなぜ宇宙飛行士にとって重要なのかを説明したものです。宇宙飛行士の生命を守り、任務を遂行するためにはこれら全てのパーツが必要となります。
【まとめ】
今回の特集で世界中の宇宙服を見てきましたが、どうでしょうか?単なる「宇宙で着る服」と言うより、すごいハイテク装置の集合体だと思いませんか?
アメリカ、ロシア、中国と、それぞれの宇宙服には、その国の文化や技術力が詰まっています。アメリカは最新技術をふんだんに使って宇宙服を開発し、ロシアは堅実な設計と耐久性を重視。中国も自国製の宇宙服を開発するなど、力を入れています。
そして、すごいのがその機能の多さ。生命を守るための生命維持機能、地球と連絡を取るための通信機能、宇宙の過酷な温度に対応するための温度調節、そして万が一の衝撃から宇宙飛行士を守る衝撃吸収機能など、細かく見ていくと驚くほど。
これらを見ていると、「宇宙服ってただカッコいいだけじゃないんだな」と感じますよね。なんというか、宇宙への人間の挑戦そのものを感じることができます。
最後に、今回の特集で宇宙服の新たな魅力を発見できたらうれしいです。そしてこれからどう進化していくのか、楽しみに見守りましょう。きっとこれからも宇宙服は私たちを驚かせてくれることでしょう。
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